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岡山地方裁判所 昭和43年(レ)38号 判決

控訴人 岩本ヲトク

右訴訟代理人弁護士 市原庄八

被控訴人 新田昭男

右訴訟代理人弁護士 岡崎耕三

同右 井藤勝義

同右 平松掟

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

第一、当事者の求める裁判

一、控訴人の申立

1  原判決を取消す。

2  被控訴人の請求を棄却する。

3  訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。

との判決を求める。

二、被控訴人の申立

主文同旨の判決を求める。

第二、当事者の主張≪省略≫

理由

一、本件土地および建物はもと訴外依田秀一の所有であったところ、右土地は昭和三七年六月ごろ被控訴人が買受け、同年一二月一四日所有権移転登記を経、右建物は同二三年ごろ訴外木村八郎が買受け、控訴人はそのころさらに木村からこれを買受け所有し、現にその敷地である右土地を占有していることは当事者間に争いがない。

二、地上権または賃借権設定の抗弁について判断するに、≪証拠省略≫によると、木村は湯頭某の世話で本件建物を買受けたが当時本件土地の持主の氏名所在がはっきりしなかったため敷地の借用方について何の話合もないうち、資金の必要から間もなく控訴人に敷地の使用関係が不明確であることを告げ買値以下の価格で売却したこと、依田秀一はその二、三年後である同二四、五年ごろはじめて木村に対し地代を請求したところ、控訴人に売却したということであったので、控訴人を訪ね地代を取り決め支払うよう請求したところ、控訴人は口実を設けて逃げまわり交渉に応じようとせず果ては借用金を申入れる有様で話合いにならなかったことが認められる。控訴人は原審ならびに当審において建物の所有権移転登記をしてくれれば地代を支払う旨回答した旨供述するが、≪証拠省略≫にてらし容易に信用しがたく、他に右認定事実を覆すに足りる証拠はない。右事実によれば依田秀一と木村八郎との間に建物の所有を目的とする地上権又は賃借権の設定契約が成立したこと、したがって、控訴人が木村から右地上権または賃借権を承継したことを認めることができないのはもちろん、控訴人が依田との間に直接同様の権利の設定契約をしたことを認めるに由なく、他に控訴人主張の右抗弁事実を認めうる証拠はない。かりに地上権又は賃借権の設定があるとしても、控訴人が本件建物の所有権移転登記を経たのは、≪証拠省略≫により認められるように同四二年四月二一日であるからその前に本件土地につき所有権移転登記を終えている被控訴人に右権利を対抗できないのは当然である。

三、次に、地上権又は賃借権の時効取得の抗弁について判断する。控訴人において昭和二三年ころから現在まで継続して本件建物を所有し、本件土地を占有していることは当事者間に争いがない。

そして地上権又は賃借権の時効取得のためには、土地の継続的な用益という外形的事実の存在のほかに、それが地上権若しくは賃借権行使の意思に基づくことが客観的に表現されていることを要するところ、前記二認定の事実関係にてらすと、本件にあっては控訴人において地上権又は賃借権を承継し若しくは直接契約したとか、あるいは地代を支払い、供託するなど地上権又は賃借権を行使する意思で占有していたと推断するに足りる客観的事実の存在を認めるに由なく、他にこれを認めうる証拠がない。

なお、かりに控訴人主張のとおり同三四年に取得時効の完成を見ているとしても、被控訴人が同三七年一二月一四日本件土地の所有権移転登記を経たことは控訴人の認めるところであり、それ以前に時効による取得の登記をしたことの主張立証がなく、本件建物につき所有権取得登記を経たのがそれ以後であること前認定のとおりであるから、控訴人は被控訴人に対し時効取得を対抗することはできない。それ故いずれにしても時効の抗弁もまた理由がない。

四、以上の次第で、原審判決は結論において相当であるので控訴を棄却することとし、訴訟費用については民事訴訟法第三七八条、第九五条、第八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 五十部一夫 裁判官 浅田登美子 東修三)

〈以下省略〉

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